2022.09.07
何をするべき? 2022年4月より中小企業も対象のパワハラ防止法を解説!
2022年4月より、中小企業におけるパワーハラスメント防止対策が義務付けられました。本記事では、法律によって統一的に定義されたパワーハラスメントにおける各種の用語と、中小企業が実際に取り組むべき内容を解説いたします。
まず、法改正があった背景として、職場におけるパワーハラスメントは2016年に厚生労働省が実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した者は32.5%とのことです。また、都道府県労働局における「いじめ・嫌がらせ」の相談件数も2011年度の4万5000件から2018年度には8万2000件を超えて、年々増加しているという状況があります。
このような状況の中、2019年の通常国会において「女性の職場生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、これによりパワハラ防止法(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止対策が企業に義務付けられました。
職場におけるパワーハラスメント防止対策の義務化は大企業が2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日からとなります。中小企業の定義は以下の通りです。
職場におけるパワーハラスメントとは
会社が取り組むべき内容の前に、法律による定義をご紹介いたします。まず、パワーハラスメントとは次のとおり定義されています。
1.優越的な関係を背景とした言動であって、
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
3.労働者の就業環境が害されるもの
1から3までの全てを満たすものをいい、これを防止する措置を講ずることを義務付けております。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
「職場」とは
事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当しますが、その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考慮して個別に行う必要があります。たとえば次のような状況です。
- 出張先
- 業務で使用する車中
- 取引先との打ち合わせの場所(接待の席も含む) など
「労働者」とは
正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する全ての労働者をいいます。また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要があります。
それでは具体的にはどのような言動がハラスメントに該当するのでしょうか。3つの分類があります。
「優越的な関係を背景とした」言動とは
業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者とされる者に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。具体的には次のとおりです。
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは
社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。具体的には次のとおりです。
- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂行するための手段として不適当な言動
- 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
「就業環境が害される」とは
当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
職場におけるセクシュアルハラスメントとは
男女雇用機会均等法第11条では、職場におけるセクシュアルハラスメントについて、事業主に防止措置を講じることを義務付けています。職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです。
「性的な言動」とは
性的な内容の発言および性的な行動と定義されます。
- 性的な内容の発言:性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を流布すること、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗なお誘い、個人的な性的体験談を話すことなど
- 性的な行動:性的な関係を強要すること、必要なく身体へ接触すること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為など
上記のような「職場におけるセクシュアルハラスメント」には「対価型」と「環境型」があります。
「対価型セクシュアルハラスメント」とは
労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。たとえば次のような内容です。
- 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること
- 出張中の車中において上司が労働者の腰、胸などに触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換をすること
- 営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格すること
「環境型セクシュアルハラスメント」とは
労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。たとえば次のような内容です。
- 事業所内において上司が労働者の腰、胸などに度々触ったため、その労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること
- 同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと
- 労働者が抗議しているにもかかわらず、同僚が業務に使用するパソコンでアダルトサイトを閲覧しているため、それを見た労働者が苦痛を感じて業務に専念できないこと
職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは
男女雇用機会均等法第11条の3及び育児・介護休業法第25条では、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて、事業主に防止措置を講じることを義務付けています。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは
職場において行われる妊娠、出産、育児休業等の利用に関する言動を元に、上司・同僚が妊娠出産した労働者や育児休業等を申出、取得した労働者の就業環境を害すことを指します。業務分担や安全配慮などの観点から、客観的に見て業務上の必要性に基づく言動によるものはハラスメントに該当しません。
それでは、具体的にどのような内容が妊娠・出産・育児休業等のハラスメントに当たるのでしょうか。2つの分類があり「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」です。
制度等の利用への嫌がらせ型とは
産前産後休業や育児休業の取得など、男女雇用期間均等法と育児介護休業法が対象とする制度や措置の利用に関する言動により就業環境が害されることを指し、制度の利用を相談、請求したことに対して行われる次の3点について防止措置が必要となる。
- 上司が解雇などの不利益な取り扱いを示唆すること
- 上司、同僚が制度の利用を取り下げるように言うこと
- 上司、同僚による嫌がらせ(業務に従事させない、雑務に従事させる)等をすること
状態への嫌がらせ型とは
女性労働者が妊娠したこと、出産したことを等に関する言動により就業環境が害されることを指し、解雇その他の不利益な取り扱いを示唆したり、繰り返しまたは継続して嫌がらせをすること。
事業主が具体的に取り組むべき内容
法律による各種の定義は上記のとおりとなりますが、会社として実際に必要となる対応とはどのようなものでしょうか。ハラスメントの防止から事後対応まで主な内容は次のとおりとなります。
1.ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知、啓発
ハラスメントを行ってはならない旨やハラスメントの内容を明確化し、全労働者に周知、啓発することを指します。周知、啓発の例としては、就業規則や社内報、階層別研修が考えられます。
2.ハラスメントを行った者に対する厳正な対処方、内容の規定化と周知、啓発
就業規則やそのほかの社内文書にて、ハラスメントを行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を周知、啓発することによりハラスメントの防止を図ることが想定され、ハラスメントがどのような行為か具体的に記載し、それに対応した懲戒処分を定めることを指しています。
3.相談窓口の設置
ハラスメントに関する苦情を含む相談窓口を予め設置し労働者に周知することを求められます。相談窓口の設置とは、担当者を決めること、相談に対応するための制度を設けること、外部の機関に委託することなどが挙げられます。
4.相談に対応する適切な対応
相談窓口担当者は、相談の内容や状況に応じて適切に対応することが求められます。相談はハラスメントを受けた本人だけでなく、ハラスメントを把握している者からの相談も含まれます。相談を受けるにあたっては、ハラスメントを受けた相談者が理路整然とした話をできない場合もあるため忍耐強く聴くことが必要です。相談を受ける場所や時間も相談者が安心して話せる状況を用意してあげることが必要となります。
また、適切に対応するということについては、相談者やハラスメントの行為者に対して一律の対応をするのではなく、状況を見守る程度、上司や同僚を通じた間接的な注意を行う程度、ハラスメントの行為者に直接に注意を行う程度などハラスメントの状況に応じて対応することを意味します。対応後には、事業主としての判断や今後の組織としての対応を相談者本人にフィードバックすることが求めら、2次被害を防止する対応も含まれます。
5.事実関係の迅速かつ適切な対応
被害の拡大を防ぐため、事案が生じてから誰がどのように対応するのか検討するのではなく、相談窓口と個別事案に対応する担当部署との連携や対応の手順を予め明確にし、事実確認を迅速に行える体制が求められます。事実確認では、業務上の必要性やその言動の前後関係も含めて判断することが必要となります。ハラスメントに該当するかどうかの認定に時間を割くのではなく、問題となっている行為が直ちに中止され良好な就業環境を回復することを優先することが意味されています。
6.被害者に対する適正な配慮の措置の実施
ハラスメントが生じた事実が確認できた場合、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うことが求められています。具体的な例としては、被害者と行為者の関係改善に向けた援助、配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件の不利益の回復などです。
7.行為者に対する適正な措置の実施
就業規則などハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒処分を行いつつ、被害者と行為者の関係改善に向けての援助、配置転換、行為者の謝罪などの措置が必要となります。行為者に対して懲戒処分を行うだけでなく、行為者の言動がなぜハラスメントに該当するのか、どのような問題があるのか理解させることが肝要です。
8.再発防止措置の実施
ハラスメントの事実が確認できなかったとしても、改めて職場におけるハラスメントに関する方針を周知、啓発するとともに、これまでの防止措置を見直すことが求められます。
万一、パワハラ防止法に違反したらどうなるのか?
現状では「罰則」は設けられていませんが、だからといって軽く考えてはいけません。厚生労働大臣が必要と認めるときは「事業主に対する助言」や「勧告」「指導」の対象となり、これらに背いた場合は内容が公表されることとなります(労働施策総合推進法33条2項)。万一上記への対応をおろそかにし、内容公表となった場合、企業イメージへのダメージは深刻です。
さらに、もちろんのこと企業(事業主・使用者)には「安全配慮義務」がありますので「パワハラの実態を知りつつ黙認していた」等、上記の配慮義務を怠っていたことが明らかになれば、民法上の不法行為責任に問われる可能性もあります(民法第709条、第715条)。パワーハラスメントが原因の損害賠償請求なども現実として起きています。そのようなケースでも、やはり企業イメージのダウンは避けられません。
今回の改正については、今までに述べた内容をもとに、多角的な視点で、具体的・積極的に対策を講じて行きましょう。そうすることで、以前よりもポジティブな職場の雰囲気作りや、社員の働きやすさの向上につながって行くのではないでしょうか。